100万回生きたねこ ある時 王様のねこだった
王様なんか嫌いだった 戦争ばっかりしていた
ある日 ねこは戦争についてゆき 流れ弾に当たって死んだ
王様は大声で泣いた そして城の庭に ねこを埋めた
100万回生きたねこ ある時 泥棒のねこだった
泥棒なんか大嫌い 暗い街 静かに歩いた
泥棒が金庫を こじ開けているうちに ねこは犬に噛み殺された
泥棒は大声で泣いた 夜の街 ねこを抱きながら
100万回生きたねこ ある時 ただののらねこ
初めて誰のねこでもなく 自分のねこだった
なにしろ立派なとらねこで 立派なのらねこ
どんなめすねこも ねこのお嫁さんになりたかった
魚やねずみやまたたびを 差し出すねこもいた
けれど誰よりも自分が 大好きだった
たった一ぴき 見向きもしないねこがいた
白く美しいねこだった
「おれは サーカスのねこだったこともあるのさ」
クルリ クルリ 宙返り それでもだめ
来る日も 来る日も 白いねこに会いに行き
「そばにいてもいいだろう?」白いねこに聞いた
白いねこはうなずき ずっとそばにいた
白いねこは かわいい子ねこ たくさん産んだ
自分のことより 子ねこと白ねこ 大好きになった
100万回死んだことも 忘れていた
子ねこたちは 大きくなって どこかへ行った
白いねこは 少しばかり おばあさんになった
いつまでも一緒に 生きていたかった
100万回生きたねこ ある朝 白いねこは もう
動かなくなっていた ねこは初めて泣いた
夜になって 朝になって 100万回泣いて泣きやんだ
ねこは白いねこのとなりで 静かに動かなくなった
100万回生きたねこ それから ねこは もうけして
生きかえらない 生きかえらない
生きかえらなかった 生きかえらなかった
生きかえらなかった |